Last updated:2018/7/4
『まほろばの項』

過去・現在・未来からこぼれ逝く言葉の雫

 19    キャンパス・イリュージョン2『甦るときめき』
 ゼミの教室の中で初めて彼女を見たとき、僕は、自分の中である種の「感情」が芽生えたことを直感した。
『ときめき』
という名の感情。僕の中では高校一年の夏以来、失われていたものだった。
 もちろん、その間、異性に興味が無かった訳ではない。通りすがりの女子高生に見惚れるようなことは何度もあった。しかし、それは「性欲」から来るものであり、あくまでも「通りすがり」に過ぎない彼女たちと自分に、なんの接点も見出せなかった。僕はそれ以上の感情を持つことに「自動ブレーキ」をかけていたのだ。
 しかし、「佐藤加奈子」という名の彼女は違う。同じ空間と同じ時間を重ねることができる。その物理的な事実が、封印されていた僕の中の『ときめき』と言う名の感情を解き放ったのだ。
 ゼミの中に二十人。学内全体なら数百人はいたであろう女子学生の中の一人に過ぎない彼女をなぜ、僕は選んだのか?
理由など無い。強いて上げれば、彼女のすらりとしたしなやかな肢体と、ショーットカットの黒髪に縁取られた小さな顔と、その中で瞬く度に光をます瞳に、心奪われたのだ。
 数年の間にすっかりその手の「免疫」を失ってしまっていた僕は、おかしくなってしまった。彼女から・・・目が離せなくなってしまったのだ。ずいぶん後でわかった事だが、その視線は、あまりにもあからさまで、彼女本人はもちろんのこと、その周囲にまで、僕の『ある種の感情のベクトルの向き』が噂になっていたらしい。まったくもって、忌々しいほどにみっともないけれど、僕は自分を制御できずにいたのだ・・・。



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