Last updated:2018/7/4
『まほろばの項』

過去・現在・未来からこぼれ逝く言葉の雫

 18    キャンパス・イリュージョン1『花の園』
 僕は高校を卒業すると、地方都市の三流私立大学に入学した。単科大学で規模こそ小さかったが、当時は珍しい福祉系の大学だったことから、文字通り「北は北海道南は沖縄」から学生が集まっていた。
 そもそも、僕がそんな大学に入ったのは「福祉を勉強し社会に貢献したい」なんて高尚な目的があったからではない。その大学に「心理学」に関する専攻科があったことと、何よりも当時の僕の内申点で充分推薦入学できたからだ。就職せずに大学に入ったのも、就職と言う社会の中の大海に泳ぎ出す自信がこれっぽちも無かったからに過ぎない。そして、とにかく自由な時間が欲しかった。
 大学生活で驚いたのは何よりも「女の子がいた」ことだ。不思議に思われる方も多いと思うが、もっとも性に関心を持つ多感な時期に男子高校で過ごし、しかも「学校行って、部活やって、家に帰る」という毎日を三年間も続けると「異性が異星人」に見えてくる。だから、入学した当初は女の子との会話もままならなかったし、何より「距離感」がつかめなかった。
 その大学では高校で言うところの学級を「基礎ゼミ」と呼んでいて、1つのゼミに三十人ほどの学生がいた。その中の三分の二ほどが女子学生で占められていたものだから、男子校から来た僕にとっては居心地が悪い事、この上ない。まあ、女なれしているヤツだったらまさに「パラダイス」状態だったのだろうけれど・・・。
 いなかもので、見た目もパッとしない僕だったが、女の子たちはそんな僕でも結構「かまってくれた」(苦笑)。しかし、話しかけてくる女の子の言葉に、どう応じたら良いのかわからない。今振り返れば、そうとうトンチンカンな応答をしていたように思う。それが女の子にはどう言う訳か「気に入っていただけた」らしく、何かと話しかけられる事が多くなっていった。あるいは、とりあえず「あぶない男」や「悪い男」ではないと判断されただけなのかもしれない。いわゆる安全パイってヤツか。
 そして驚いたことに、彼女らは出会って1週間とたたないうちに、僕の名を呼び捨てにし始めた。つまり「ヒロシ(仮名)!」と教室だろうが、キャンパスだろうが、大声で呼ぶのである。これは、僕が馬鹿にされているとか、なめられていたとかということでない。なぜなら、他のヤロウどもも、同じく呼び捨てにされていたからだ。なぜそんなことに驚くんだ?と思われるかもしれないが、僕の田舎の中学校では、女子は男子を「〜君」と呼び、男子は女子を「〜さん」と呼ぶように習慣づけられていたのだ。異性同士が呼び捨てし合うなどテレビドラマの恋人同士の世界ぐらいだと思っていたのだから・・・。
 付け加えておくが、僕はついに大学の四年間、どんなに親しくても女の子を呼びしてにできなかった。今思うと、ちょっと口惜しい気もするから変なものだ。
 とにかく、僕の学生生活は、男の汗臭い剣道づけの毎日から、女の子の香水の香に鼻をくすぐられる日々へと大きく変わっていった・・・。
つづく



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