Last updated:2018/7/4
『まほろばの項』

過去・現在・未来からこぼれ逝く言葉の雫

 10    暗黒の高校時代編1『剣道部物語 1』
 『柔道部物語』という漫画がある。僕にとっては特別思い入れのある漫画だ。ストーリーはいたって単純。高校に入学した文科系の少年が、甘い勧誘の罠に騙されてひょんなことから柔道部に入部。少年はが、生来の負けず嫌いな性格も手伝って、めきめきと力をつけついには高校日本一になってしまう、というサクセスストーリーである。この漫画が、他のスポーツ漫画と一線を隔しているのは、単なるスポコンモノではない、その背景のリアリティさにある。僕の高校時代と酷似している点が多く、何度読み返しても思わず苦笑いしてしまうのだ。
 さて、ここから僕の『剣道部物語』を語ろう・・・。
 
 僕が入った高校は、いわゆる男子校で、「バンカラ」として県内はもとより、プレイボーイと言う全国紙にも紹介された事のある、ちょっとした有名校であった。生徒は、腰に手ぬぐいをぶら下げ、下駄をからころ鳴らして学校に通う。自転車にも下駄履きで乗るのだから、徹底したものである。そして、何よりも恐ろしいのが応援練習。昼休みになると「応援団」を中心とした先輩が1年生である僕たちの教室に何人も入りこみ、竹刀で黒板をぶったたきながら、こう叫ぶのだ。
「ようし!みんな、立て!!これから、校歌と、応援歌の練習をはじめる!!」
こうして、長く苦しい、応援練習が始まるのである。
校歌は2番まで、応援歌は第1応援歌から第3応援歌までおのおの2番まであり、さらに試合に勝った時に歌う「凱歌」、負けた時に相手に贈る「凱歌」があり、都合、6曲の歌を完璧にマスターしなければならないのだ。できの悪いやつは、放課後、屋上に呼び出され、特訓される事になる。
 さらに当然の事ながら、先輩と後輩の上下関係は厳しいものであった。後輩は先輩を見つけると
「オッス!!」
と、大きな声で挨拶をしなければならない。声が小さいと、
「きけねぇ!!」
という罵声。
このような毎日が1ヶ月あまりも続き、これがもとで、高校を中退した生徒が何人かいたらしい・・・と言う噂がまことしやかにささやかれた。
 さらにこの高校では奇妙な伝統があった。ほとんどの生徒が自転車通学だったのだが、後輩が先輩の自転車を追い越すためには次のような手続きが必要なのである。
「1年○組!なんのだれそれです!追い越させて頂きます!!」
こう叫んで許しを得たのち、やっと先輩を追いぬく事ができるのである・・・。まったく持って変な学校あった。
 さて、僕が剣道部に入った理由は二つある。一つは、早く部活に入らないと、恐ろしい「応援団」に強制的に入部させられてしまうと言う事。もう一つの理由は、中学時代に剣道をはじめるにあたって、祖父がどうしたわけか「防具」を買ってくれたためだ。一般の人は剣道の防具の値段など、興味もないだろうし、知りもしない。当時で、四、五万はするものだったのだから、決して裕福とは言えなかった家にとって見れば、大きな買い物である。ゆえに、僕は防具を使いつづけるために、剣道部に入らなければならなかったのだ・・・。
 
つづく



| Back | Index | Next |


ホーム プロフィール 『ソフテ!!』 『ソフテ!!』 映画化 計画! ● まほろばの項 光の項 『セカンド・バレンタイン』《白の項》 僕の好きなもの
映画大好き!


メールはこちらまで。