Last updated:2018/7/4
『まほろばの項』

過去・現在・未来からこぼれ逝く言葉の雫

 12    『剣道部物語 3』
 くどいようだが『剣道』はスポーツではない。だから練習そのものは、決して楽しいものではないのだ。欧米のスポーツは「遊び」から発展したものだが、剣道は「殺し合い」から発展してきたものなのだから当然なのかもしれない。
 基本的に剣道は夏も冬も同じ格好で練習をする。雪の降る真冬も、気温30度を越える夏も・・・。だからとりわけ夏の練習はつらい。そしてつらい時期にこそ練習が厳しくなるのが武道なのだ(シーズンオフなんて言葉はないもんなぁ)。
 僕の高校の剣道部は夏休み中の一週間、いわゆる合宿をする。校舎のすぐ脇に合宿所があって、十畳ほどの部屋にムサイ男どもが寝泊りしながら練習するのだ。この合宿ほどわが人生において過酷な思いではなかった(今にして思えば・・・)。
 朝、五時半に起床。軽いランニングの後早速道場で練習が始まる。ところがこの朝の練習がいきなりハード。物好きで暇なOBが何人もいて、仕事前にちょっと後輩をかわいがってやろうとやって来るのだ。中に、警察の機動隊員がいて、僕は殺されそうな思いをしたことがある。あれはもう『剣道』でさえない。体当たりするなり僕に足を引っ掛け、転ばしたあげく、その上から竹刀で叩きつけるのだ。
(こいつは間違いなく『サ○』だ!)と僕は思った。
 朝からこの調子なのだから、あとは推して知るべし。まあ、付け加えるなら一日の最後の練習が終るのが夜の十時半だと言うこと。だって、仕事を終えたOBがまたぞろストレス発散に来るのだから・・・。
僕は、この合宿で初めて「気絶する」という体験もしたし「血のションベン」がでるというからだの異変も知った。まあ、唯一救いなのは、このような体験をしたのは僕だけではなかったということぐらいか。
 最後にもう一つ、剣道部の夏の「伝統」について記そう。練習の合間に一年生は近くの公立病院の氷の自動販売機に足を走らせる。ヤカンいっぱいに氷を買ってくるのだ。それに合成着色料原色に染まる「ジュースのもと」となる粉をぶちこみ、水を入れる。ヤカンいっぱいの冷たいジュースのできあがりである。中身は「いちご」のときもあるし「オレンジ」の時もあった。一番人気は「メロンソーダ」だったかな。これを先輩から順に飲み干して行く。だから一年生のところに回ってくる時には、もう中身はほとんどない。それでも僕らは、それに水を注いで量をふやし、ほとんど味のないジュースを嬉々として飲んだ。
ああ、あの粉ジュース。どこに行ってしまったのかな・・・。今やその姿を店先で見る事はないけれど。



| Back | Index | Next |


ホーム プロフィール 『ソフテ!!』 『ソフテ!!』 映画化 計画! ● まほろばの項 光の項 『セカンド・バレンタイン』《白の項》 僕の好きなもの
映画大好き!


メールはこちらまで。