Last updated:2018/7/4
『まほろばの項』

過去・現在・未来からこぼれ逝く言葉の雫

 14    暗黒の高校時代編3『恐怖の学校祭』
 男子校の学校祭なんて、さぞむさ苦しいだろうなあと思われるだろうが、決してそんなことは・・・ある。むさ苦しいし、彩りが無いし、はっきり言って見るべき物が無い。なんせ、学校祭を運営しているはずの生徒たちが隣の女子高の文化祭に行ってしまうのだから、もうこれはどうしようもない。
 しかし、うちの高校の学校祭は「つまらない」などという言葉で簡単に片付けることができないのだ。
 実はうちの高校の学校祭には大きな三つのイベントがある。
 その一つが体育祭。学級の全員が何らかの種目のスポーツに参加し、戦うのだ。卓球、柔道、ハンドボール、陸上競技・・・。学年の枠を取り払って行われるこのイベントは、1年生にとっては恐怖以外の何物でもなかった。特に「ハンドボール」や「バスケット」。これは球技の名を借りた格闘技である。僕はうまい具合に陸上競技に逃げこむことができたが、ハンドボールに出場してしまった友人は悲惨であった。初戦から3年生チームとぶつかり、頬に大きな青痣をつくって泣き泣き帰っていった。時に1年生でも運動能力の優れているヤツがいるが、先輩の鋭い眼光にその力を発揮することなどできないのだ。
 そして、これらのすべての競技の結果が点数という形で記録される。
 次には合唱祭が待っている。男子校の「合唱」なんて、誰もまじめにやらないだろう、と普通考えそうなものである。僕自信そうだったのだが、これが全然違う。というのは、この合唱祭の成績も点数化され、体育祭の点数に加算されるからだ。とくに1年生は、体育祭での遅れをここで取り戻さなくてはならない。俄然張り切ることになる。なんと本番の1ヶ月前から「朝練」が始まり授業の始まる前の40分あまりがそれに費やされる。皆をまとめあげる指揮者の真剣さは、はじめばらばらだった学級の皆の気持ちをを見事に一つにした。彼は朝早くから大きな声を出さなければならない皆のことを考え、自腹を切って毎日「喉飴」を配るという心遣いを見せたのである。これに答えなければ、バカだ。皆は奮起し、見事我がクラスは合唱祭で好成績を残す事になる。
 最後のイベントは、合唱祭と同時期に行われる「学級旗コンクール」である。つまり学級のシンボルとなる旗を作成し、その不出来を競うのだ。しかしこの旗の大きさが半端ではない。畳にすると十畳はゆうに超える。それに下書きをし、色づけしていくわけだから大した仕事になる。コンクール当日は三学年各七クラス、計二十一枚のこれらが、校舎の壁と言う壁を埋め尽くすのだから、もう圧巻と言う他ない・・・。
 
 そして、これら三つのイベントの合計点数が学校祭最終日の夕方、「後夕祭」で発表される。もちろん、ここで最優秀賞クラスが発表される訳だが、どちらかと言うと、うちの学校の場合「最低点数クラス」を決めるのが「後夕祭」の主旨のような趣が強い。
というのは「最低点数クラス」の栄誉に輝いたクラスは「勧告クラス」と呼ばれ、「後夕祭」の最後にステージ上に学級の生徒全員が上げられ、「芸」を強要されるのだ。つまり「罰ゲーム」である。しかし、これがあまりたちがよろしくない。ちょっとでもつまらない芸だと、罵声や怒号、モノまで投げつけられる。幸い、僕のクラスは合唱祭のおかげでこの憂き目にあわずに済んだが、「勧告クラス」になってしまった友人の一人は、「腐った生卵」を頭にぶつけられ、これまた泣き泣き帰っていった。わざわざこの日のために、卵を腐らせて準備しておく輩がいるのだから困ったものである・・・。
 こんなトンでもない伝統と慣習があった我が母校であるが、数年後には少子化のあおりを受けて、近くの女子高との統合が決まった。
 まったく、色気もへったくれも無い、苦々しくも笑える三年間の記憶を与えてくれた我が母校よ。その名を無くしても、我が胸のうちに永久にあれ・・・・・。



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